狐の嫁入り‐好喰う天女‐ 副読
狐の嫁入り 好喰う天女 副読
ガヤガヤ、ガヤガヤ、賑やかな昼休み。ここ、東南高校のある教室では、女子生徒が二人でとある本を読みながら、語らっていました。
「という訳で始まり、始まりました。副読。今回の登場人物は、‟私‟こと松本恵美と」
「‟私‟こと、嬬恋一花です」
「さぁ、えーでは早速、語らっていきたいと思いますが…」
「ちょっと待って恵美。これこんな感じに進めていくの? これじゃ‟映像に後付けで話してる‟風になっちゃう。一応これ、私達が、‟どこかの教室で昼休みにごく自然に語らっている‟風だから。みんなこのあとで、私達のスタイルを踏襲していくんでしょ?」
「そうだね、ごめんごめん。では気を取り直して…」
「はいっ、どうも、嬬ごっちです! 今日はこの『狐の嫁入りシリーズ』第一巻、『好喰う天女』をレヴューしていきたいと思いますっ!」
「入りから違う、頭から間違ってる! そんなユーチューバーみたいな始まり方、ダメ。『嬬ごっち』って何? ニックネーム? それで活動していくの? そもそも何でたまごっちから取ってるの? 今時の子供分かんないよ!」
「いやー、それにしてもこの始まり方って、誰目線なんですかね? あの時は私と島崎しかいなかったはずなのに…」
「進行してるし。今日はそのキャラでいくのかな…」
「分かる方、視聴者さんの中にいたらコメントしてくださーい」
「まさかの考察系でよくある視聴者参加型の動画だったか。でも、そうだね。この小説って私達、登場人物の誰かが語り部になって進んでいく物語だから、その人の目線でしか物語は進んでいかないはずはのに…」
「スパチャありがとうございまーす! んーと何々? 『それは神の目線と言って、物語の展開上、しょうがなく入ったものじゃないですかね』かー。確かに一理あるかも。あれがなかったら、ちょっと物足りない感じがするよね」
「スーパーチャットまで再現するんだ。確かに神の目線はありえるかも知れないけれど、ここで島崎君の名前が先に出てしまったのは、読者の皆様は混乱すると思うなぁ」
「ちょっといい? これ今読み返してみると、私のあられもない姿がありありと描写されているじゃないの。これは流石にインターネットで広く世に出していいの? せめてモザイク掛けなきゃ、何かしらの罪に問われるんじゃない?」
「やっと戻った! そうだね、これがもし映像化されるとなれば、なかなか際どいショットではあるよね。というか、自分のあられもない姿がモザイク掛けられた程度で、世に広く出されていいの? そっちの方が嫌じゃない?」
「読んでくれるならいくらでもはだけるよ」
「わぉ、凄い宣言。あ、あのね。自分の首を絞めることになるから、あまりそういうこと言わない方がいいと思うなぁ」
「まさか、このシリーズがいくら続こうが、これ以上はだけることなんてないでしょう? これ以上はだけるのなら文字ですら、発刊禁止になるでしょ」
「本当にそうなるといいけど…。誰も未来のことなんて分からないんだし、危ない発言は控えた方が、それに‟はだける‟という言葉も…」
「所詮、私達は人気商売だからね。どんな危険を冒してでも人気者であれば上々よ」
「…自分がいいならいいんだけど」
「さ、主人公が出てきた、この人の名前、まだ分からないの? 何なら、この話している女子さえ誰か分からない始末」
「それは、後に判明するから、待ってて」
「名前も分からないのに、家の場所を紹介されてもねぇ。しかも、女の子置いて走ろうとするし」
「まぁ、それは翔太が傘を忘れてきたから。でも自転車通学なら天気予報くらいチェックしておくべきだね。一花がいなければずぶ濡れで帰ったってことでしょ?」
「本人はそのようだったから、私が見かねて一緒に帰る提案をしたって訳よ」
「それは嘘だろうけれど、結果、二人で相合傘。狙ったとしか思えない」
「誤解、誤解。本当は護衛が欲しかったの」
「違う目的を狙ったのね…。見事護衛にはなったけれど。これ庄司さんの友達だけが睨んでる訳じゃないんでしょ? これが、あなたが敵に回した人の数なんでしょ?」
「話の流れで、ついつい庄司とかいう女の友達に思えちゃうよね。実際私もそう思っていたし、敵に回しちゃいけない部類だったんだな、ってこの時少しだけ思った」
「庄司とかいう女って言うのを止めて。聞いてたらどうするの?」
「戦闘も辞さない。圧倒的な力を見せつけて、おさらばよ」
「絶対止めるからね、みんなで」
「ほら、恵美。マイスイートハニーが元彼である島崎の名前を聞いたよ」
「本当だね。ちょっぴり後悔してたんだ。名前よりどんな感じの男子かを知りたかったんだろうけれど、名前とクラスを聞いて自分で見に行く予定だったのかな」
「この後、見に行くんだけどね。私もよく知らないけれど」
「そうだった、深く知り合わずに冒頭のシーンになったのだったね」
「恵美はテスト週間中、いつもより早く登校する?」
「私はいつも通りに登校するよ。ルーティンを崩さないことも大事だからね」
「流石、私達には分からない世界だわ。私は少しでも詰め込まないと、不安でしょうがないもの」
「翔太はいつも早めに登校しているんだね」
「そう。だからかなり恥ずかしいのよ」
「何が恥ずかしいの?」
「朝、私達二人が他のクラスメイトよりも早かったら、結果、席が隣同士の二人しかいないとなる訳です」
「それはそうだね…。何が起きているんだって思うよ」
「ここでようやく、主人公の高浜翔太の名前が出てきた。もうここまで出なかったら、私が主人公で、翔太が見ている私を述べている小説に勘違いしている人も、それなりにいるかも」
「それは無いにしても、遅すぎるとは思うよね。」
「で、恵美はここで何を言おうとしたの? 翔太に言わないから行ってご覧なさい?」
「貴婦人⁉」
「さ、さぁ! 私という親友相手に黙っているのも、限界でしょう? 言ってしまえば直ぐに楽になるわよ、おほほ」
「ごめん、今の今まで忘れてた」
「嘘でしょ。学年一頭が良い、松本恵美が忘れるってありえないでしょ」
「私だって忘れることくらいあるよ。それに、これはそんなに大事なことじゃないから忘れたんだよ。大事なことなら忘れないし、一花だってそうでしょ?」
「なら、いいのだけどね」
「わぁ、私の紹介じゃない。そして、こんなこと憶えていたの? 黒歴史もいいところ、暗黒歴史じゃない」
「元気はつらつ松本恵美さんだ。元気はつらつ松本恵美さん最近見ないなー、どこ行ったんだろう」
「私はその人知らないけれど、名字の上に付いている余計な四字熟語取ってもらえるかな? 取ったら今すぐにでも現れる気がするよ?」
「いや、今すぐになんて会えないはず。だってみんなで『これは忘れよう。これは事故だった』という取り決めをしたもの」
「元気はつらつ松本恵美さんの身に何があったか後で詳しく教えて」
「誰も悪くないということは教えておこう」
「分かった。聞かないことにする」
「あー。告白されちゃったー」
「されちゃったね。これ見よがしに告られてるね」
「これさ、翔太も悪いよね。こんなにアピールしてるのにずーっとランク:友達で止めているんだから」
「まぁ、翔太は『僕なんかが…』って思ってそうだよね」
「だから私は了承しました。私が悪くないことが立証されました」
「ここで振って、翔太に思いの丈をぶつければかっこ良かったのにね」
「そんなことできる訳ないじゃない? 相手も怖いし、翔太に振られるのも怖かったんだから」